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【解決編】「愛の挨拶」をめぐる音律ミステリー

前回からの続きです。
エルガー「愛の挨拶」、ピアノ版はイマイチと思ってる方、この音律ならいかがでしょうか?
ご登場願うのは英国19世紀初頭の音律、スタンホープ(←祝!初登場)です。
3rd Earl Stanhope (英語版Wikipedia)




★上の音源ではピタゴラス・コンマ分割で、G-D-A-Eを純正よりも8セント狭くしています。

キルンベルガー第二法の11セント狭い五度がアンマリなので、それを改良?した音律と思われますが、それでも不等分ここに極まれりの構成で、純正よりかなり狭い五度が三つ連続…
この7~8セント狭い五度は、一応五度に聴こえるが、ボヨ~~~ン(笑)という大きな唸りを発する微妙な音程です。
「大丈夫か?こんな音律で!?」と思いますよね。 でも、聴いてみるといいでしょ?
この曲に使うと平均律よりも旋律の音程が良く、華やいだ甘い雰囲気が大変良く出ます。
例えば、冒頭旋律が魅力的に聴こえる秘密をさぐると…



EとD#(E♭)の半音が狭いのは不等分律の一般的な傾向で、前回記事の平均律バージョンと比べると、旋律がずっと自然で魅力的。
(「エリーゼのために」の冒頭もEとD#の交替で、平均律では間が広すぎて文字通り「間抜け」な感じに聴こえてしまう)
E⇒Aの跳躍が大きいのは、この音律のA-E五度が純正より狭いためで、転回した四度は逆に純正より8セントも広くなります。(平均律比では6セント広くなる)
場合によっては不具合に聴こえる広さでも、この曲にはそれがプラスになっているのです。

ホ長調領域はこのA-E以外は純正五度が並んでいますが、E-G#やB-D#(E♭)は純正より広いピタゴラス長三度(平均律長三度よりさらに8セントも広い)となり、旋律が和音伴奏から浮き出る効果があります。



一方、ト長調の領域は狭い五度が三つも並んでいます。
それぞれの調で階名ド-レ-ミに当たるG-A-BとE-F#-G#を、平均律と比べると ────

G --すごく狭い(-12セント)-- A --少し狭い(-6セント)-- B
E --少し広い(+4セント)-- F# --少し広い(+4セント)-- G#

同じド-レ-ミでも、音の間隔がまるで違うんですね。
不等分律は「調によって和音の響きが異なる」と言われますが、旋律(音階)だって違うのです。
少なくとも「愛の挨拶」作曲時のエルガーのピアノが、このスタンホープと全く同じでなくても同系統の不等分律だった可能性は非常に高いと思います。
そうでなければこのような偏りの大きい音律で、美しく演奏できるはずがないので。
特にホ長調⇒ト長調というやや変則的な転調は、不等分律の調によって異なる音階に、旋律を上手くハメるため…と考えられないでしょうか?
頭の中で浮かんだ旋律を色々な調でピアノ演奏し、一番旋律が美しく聴こえる調を選択したのではないか、ということです。

ミーントーンの時代はウルフを避けると言う意味で、調性や転調に制限がありましたが、不等分律が広まり全ての調が使えるようになっても、作曲の際に調性は音律の特性と切り離せなかったのでしょう。
ピアノが主要な表現ツールではなかったエルガーでさえこれくらいやっているのなら、ショパンなど推して知るべしです。
演奏側から言うと、12の固定音しか使えない鍵盤楽器でも、音律の選択によって曲に合った12音を用意すれば、より良い効果が得られる可能性が高いことになります。
このようにして、平均律でイマイチなピアノ曲を古典調律で救ってあげたいですね。
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エルガー「愛の挨拶」をめぐる音律ミステリー【謎編】

ショパンとキルンベルガー第一法の関係では大変お世話になっているこちらのサイトでは、エルガーの「愛の挨拶」のお勧め音律として、やはり第一法があげられています。
「なるほど、ホ長調だしね…これも一法か」
同じくホ長調のショパン「別れの曲」も、当ブログのこちらの記事で第一法を使ったし、D-Aのウルフを踏みにくいという点で、相性がいいことは分かっています。

急に打ち込みしてみたくなったので、全音ピアノピースの「愛の挨拶」を買ってきました。
しかし楽譜を見ると…中間のト長調でD-A被ってるけど大丈夫?
でもショパンだって、楽譜見てダメっぽくても上手く行くことあるしね!
まずは打ち込んでみよう、大好きな曲だし ────

(数時間後)…ダメだこれ!!!!


この曲は何よりも旋律の美しさが重要なのに、冒頭フレーズのA音が低くてカッコ悪いです。↓


しかしここは何度も聴けば「これもアリかな?」と許せないでもありません。
ですがト長調になってからのここ↓は完全にアウト!


どちらも「音階内にA音が含まれる調の旋律的なフレーズで、A音が低く感じられることがある」というキルンベルガー第一法の欠点そのままで、ある意味当然の結果です。
他にも弱音とはいえD・Aの同時打鍵(C##・Aも含む)もあるし、この音律のウリである白鍵領域の純正長・短三度を活用しているとも言い難く、お勧め音律どころか「欠点のデモ曲じゃないの?」と言いたいほど。

さて「愛の挨拶」は現在、オリジナルのピアノ版よりもヴァイオリンなど旋律楽器とピアノ(または小オーケストラ)の方が断然人気があり、良く演奏されています。
理由は簡単で、自由に音程が取れる楽器の方が、この曲の魅力である旋律が美しく聴こえるから。
現代のピアノといえば平均律ですが…↓(さっきと同じ演奏で、音律だけ違います)


これだけ聴いてれば「まあまあ」かもしれませんが、ヴァイオリンなどと比べると何となく旋律が冴えず、曲の魅力が今ひとつ伝わってきません。
これは「12の固定音」しか使えない鍵盤楽器の宿命みたいなもので、仕方ないのかなあ…と一旦は思ったんですが…
上の平均律演奏で、ふと気づいたことがあります。
「ホ長調からト長調に転調した最初の2~3小節が妙に不安定な気が…?」
(56秒~からの、特に旋律)


もしもエルガーのピアノが平均律だったら、このように作曲しただろうか?
1888年(←作曲年)ってまだ平均律じゃない可能性も…?
適切な音律を使えば、ピアノでも旋律が美しくなるのでは?

そこで片っ端からめぼしい音律を適用してみると ────
・キルンベルガー第二法:美点も多いが、傷も少々…
・キルンベルガー第三法:二法の傷は無くなるが、美点もやや後退
・ミーントーン系ウェルテンパー音律(ラモーなど):意外と良い
・ケルナー:なかなかいいけど20世紀の音律だしな…
・ヴェルクマイスター:大きな欠点はなくても、ピッタリ来る感じもない
・ヤング2よりはヴァロッティの方が若干良いみたいだけど、決め手に欠ける
・ピタゴラス律によるストレステスト(関係ないところにウルフを回して鳴らす)をすると、ホ長調部分は結構良いのに、ト長調に入ったところ(前述の平均律で不安定な部分)で完全に旋律が音痴になる
⇒「正解」音律は、五度圏図でホ長調音階部分は純正五度が、ト長調では狭い五度がかなり並んでいるようだ・・・?!
・A-Eの五度が狭い音律だと、転回した四度が広くなるので、冒頭旋律のE⇒A跳躍が広くなり、旋律が魅力的に聴こえる(第二法が良いのはそのため)

う~ん、若干の傷に目をつぶって第二法か、無難に第三法か、でも後者では平均律との違いが微妙すぎるかも。
もう少しインパクトのある音律はないものか…(音律ノートの五度圏図をぼんやり眺めていると、とある音律に目が留まる)

・・・あッ!!!これだこれ!すっかり忘れていた!
これなら第二法の傷は解消し、しかも第三法よりずっといいはず!
っていうか、あ~~!!!19世紀英国の音律じゃん!
どうしてもっと早く気づかなかったんだろ!
これでキマリに決まってる!!!  \(^o^)/     【次回に続く】

ギターとリュートの音色で音律聴き比べ

ショパンをやっている途中ですが、キルンベルガー第一法つながりで色々調べていて、面白い実験をしたので記事にします。

ネタ曲はステファン・へラー(1813~1888)の作品119-2 前奏曲ハ長調。
IMSLPで見つけた楽譜はこちら↓ (クリックで大きくなります)



D・Aの同時打鍵なし、近接使用は1箇所のみで、キルンベルガー第一法で演奏可能、しかもウルフをC#-A♭にしたAs型ミーントーンでも大丈夫です。
しかしざっと打ち込みして聴いているうちに「ピアノ曲としては平板で地味だなあ、ギターなら丁度いいくらいだけど」と感じたので、音色を変えギター演奏風に編集してみました。
自分で演奏したことのない楽器をそれっぽく打ち込むのは難しいのですが、まあギターやってない人なら騙せる?程度には仕上がってると思います。
実際に弾いている人には突っ込まれる所があるかもしれませんけど。

ミーントーン、キルンベルガー第一法、平均律の順で鳴らしています。
(ギター曲として不自然な音をオクターブ移高したり、終結部分など多少アレンジした部分があります)



ついでにリュートもやってみました。
音源に「リュート」の音色がないので、リュートの元になった中東の楽器「ウード」を(リュートは複弦なので)2チャンネル重ねました。
低音が少し違うような気がしますが、聴いた感じはほぼリュートなので代用として差し支えないと思います。
これもミーントーン、キルンベルガー第一法、平均律の順です。



★どちらもある程度大きな音量か、ヘッドホン等でお聴きください

どうでしょうか…?  私の印象は ────

1、ギターよりリュートの方が音律の違いが良く分かる
2、ギターの平均律はまあ我慢できるが、リュートは酷い(聴いていられない)
3、19世紀の曲なのに、リュート+ミーントーンだと古楽っぽく聴こえる
4、ミーントーン、中間部分で低音のB♭・A♭の音程がイマイチ(特にギターで気になる)
5、五度は捨てている(笑)ミーントーンだが大いに健闘!

1は何故なんでしょうねえ?
使用音源は、実際の楽器の音色をサンプリングしたものではなく、波形をデジタル的に合成するタイプだと思うんですが…
2とも関係しますが、ギターは平均律で聴きなれているため、耳が不正音程に鈍感なのかもしれません。
平均律の響きも込みでその楽器のイメージができてるってことですね。(これはピアノも同様)
私はリュートのCDもたくさん持っていますが、やはりそれらは平均律よりマシな音律だから、「平均律リュート」に違和感があるんでしょう。
なので、プロのリュート演奏をほとんど聴いたことがなければ、「1」のように感じない人もいると思います。

4は、キルンベルガー第一法で鳴らしながら演奏を編集したせいもあります。
ミーントーンだったら、もう少し目立たないようにしたでしょう。
リュートの方であまり気にならないのは、音色によって音域による音量バランスが違うせいかと思います。

純正音程の割合で言えば、この曲では圧倒的にキルンベルガー第一法が優れていますが、長三度しか合っていないミーントーンが意外といいのは、本当に不思議ですね。
五度が5セント以上狭いっていうのは、かなり厳しいはずなんですけど・・・
独特の古風で親密な響きは、むしろこちらを好む人もいるかと思います。
鍵盤で「操作」しているとはいえ、チェンバロもギターやリュートと同じく弦をはじいて音を出すので、ミーントーンは撥弦楽器と相性がいいのかもしれません。

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