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想定外の転調!~ショパン・ノクターン第1番

ショパンのノクターン第1番は、フラット5つの変ロ短調(変ニ長調の平行短調)です。
いわゆる音律の裏をメインに使うので、普通ならキルンベルガー第一法のウルフD-Aに抵触する危険は低いのに、中間部分で想定外の転調があるため、第一法ではまともに不具合が出てしまいます。
実は第二法でもギリギリなんですが…まあどうぞ(笑)↓



問題の個所は、変ニ長調からたった半小節の移行部を経て、半音上のニ長調に転調する部分です。



D-Aがウルフの第一法にとって、ニ長・短調は最も苦手な調です。
しかも最も音程の狂いが目立つ中音域での空五度、遅いテンポ…では、どんなに弱く弾いても(ここは「ppp」ですが)D・Aを同時打鍵したところでアウトなんですね。
第二法でギリギリ・セーフなのも、ここが「ppp」だからです。
逆に言えば、何故ここが「ppp」なのか ────この曲を作曲していた時、ショパンのピアノが第二法だった ──── からかもしれません。
ここを過ぎると急に「f」になるのが何か怪しい…(笑)

★このニ長調部分は4回出現し、2回目以降は初版譜に強弱記号が欠けているため、多くの版では「ppp」や「pp」などが補充されています。
いずれにせよ、非常に弱く弾かれる部分になります。

強弱法が「二法で救助」的だったので、動画は二法で作りましたが、このノクターンはヴェルクマイスターやヤング2など他の古典調律で演奏しても、純正五度が並んでいる裏メインなので、聴いた感じはそんなに変わりません。
危険を犯してまで二法で演奏する利点は少ないとも言えます。
平均律も、やや旋律が左手分散和音の中に沈みますが、その分柔らかなサウンドで雰囲気もあり悪くないです。
まあどの音律でも似たようなもん…ということで、音律探偵的にはつまらない曲ですね。

ところで、なぜ変ニ長調⇒ニ長調が「想定外」転調になるのでしょう。
実は半音上(または下)への転調は、ミーントーンやそれを修正した音律で鍵盤楽器が調律されていた時代には無謀だったのです。
このように↓五度圏図でほぼ反対の領域を使うので。



五度圏のどこかに音律的弱点があると、このような転調をした時に響きが歪んでしまいますね。
作曲的にも音階構成音の大部分を取り替えないといけないので、自然に転調させるためには移行部に工夫が要ります。
(上の図でC#とF#音は両者共通ですが、厳密には変ニ長調はC#⇒D♭、F#⇒G♭なので、異名異音時代の感覚では「全とっかえ」になる)
そんなこんなで(笑)特に鍵盤曲では、半音の転調は伝統的に普通でないわけです。

しかし平均律前提の現代のポピュラー音楽では、普通に使われています。
最も良くあるのは、曲の最後にサビを繰り返す時「半音上げる」ですね。
繰り返しの冗漫を避け、よりいっそう曲を盛り上げる効果があります。
カラオケで思い当たりませんか?

音域に余裕がある歌手だと「全音上げ」もあります。
私はイタリアのポップスを良く聴きますが、イタリアでは全音上げの方が目立ち、何と!1番から2番に行く時「全音上げ」、最後にサビを繰り返す時もう一回「全音上げ」する人までいます。
しかも転調のための間奏なしで、いきなりポン!と上がるんですね。
日本では短い間奏アリの方が普通と思いますが、最近のJ-POPには疎いのでこの点どうなんでしょうか?
転調事情も時代や地域により色々あって、調べたらなかなか面白そうです。
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ノクターン嬰ハ短調 遺作~ヴェルクマイスター

ショパンの遺作の中では、センチメンタルな曲調と弾きやすさで人気のあるノクターン(20番)嬰ハ短調 レント・コン・グラン・エスプレッシォーネを、古典調律の代名詞的存在のヴェルクマイスター(第一技法 第三番)でどうぞ。



★この曲はショパンの死後出版のため各種の版がありますが、使ったのはIMSLPのこちら・一番上の楽譜です。(全音のショパン ノクターン集と同じ)
合衆国ではまだパブリックドメインでなく、YouTubeにアップしていいか分からないので、楽譜付き動画にしませんでした。
8小節目・左手のD#(F#に替えることも多い)もそのまま演奏しています。

実はこの曲、平均律でも全く問題ないというか、非常に良いんですね。
平均律のモヤモヤが音の少なさをカバーして雰囲気があるし、コーダの18連符や32連符も霧がかかったようで神秘的です。

ショパンのノクターンは概して ────
1、平均律で演奏してもあまり問題は無く、むしろ夜想曲的なムードがあって良い
2、色々な古典調律を試しても、イマイチ決め手に欠けるような…
3、黒鍵が多い調でキルンベルガー第一法で弾けそうでも、想定外の転調や和音で不具合が出ることが多い
……なんですよ。

このノクターン嬰ハ短調もたった3ページの短い曲で、やや通俗的な旋律がタラタラ流れるだけ(笑)、シャープ4つならー法でイケるかな?と思ったらダメなんですね。
それはこの部分↓(1分02秒~の個所です)



二法なら気をつけて弾けばギリギリセーフ?ですが、続くイ長調に転調した個所で…↓



「pp」とはいえ、フレーズの大事な音なのに…二法だと狭い五度がふにょ~んと鳴ってしまいます。
ふにょ~ん…聴いている人には許せたとしても、演奏する立場だと情けない。
テンポが遅い上に音が少ないと、こういうところがシビアなんですね。

第三法でもイ長調の部分がイマイチ(キルンベルガー系はイ長調ダメだわ!)で、「古典調律ってほとんどA-Eの五度が狭いし…困ったなぁ、この曲は記事にするの止めよ」と諦めかけたら、あ~!忘れてました、A-Eが純正なあの音律を!
──── ということでヴェルクマイスターです。(笑)

実際の楽器では平均律よりも純正五度が多い分、楽器の響き自体が美しくなる利点がありますが、デジタル音源ではその差が微妙なので、抜群に良くなるわけではありません。
しかし他の古典調律と比べた場合、イ長調のハッとする明るさが印象的なこと、4つある狭い五度の使用が少なく、音律の欠点が目立たずに済むのが利点です。
★嬰ハ短調の和声的短音階ではB⇒B#なので、狭い五度B-F#はほとんど使われない
★狭い五度が目立つのは、キルンベルガー第一法でダメになる個所と同じD-Aくらい

ヴェルクマイスターは代表的なピタゴラス・コンマ四分割の音律ですが、狭く調整した五度のうち1つが五度圏上で離れているので、(似ていると言われる)キルンベルガー第三法よりも平均律との偏差が少なくなっています。
古い音律の割には、古典調律の中では現代ピアノへの使用が多いのも、平均律に最適化されている楽器と相性が良いからかもしれません。

この曲の作曲音律を推定するのは難しいですが、ヴェルクマイスターが「合う」ことからしても、ある程度均された音律だったことは確かなようです。

ついにハ長調+キルンベルガー第一法♪ キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

さてついに来ました!ショパンのハ長調曲とキルンベルガー第一法のコラボです。
エチュード作品10の7、まずはお聴き下さい。


ハ長調なので当然白鍵の使用が多く、D音&A音も多用されています。
しかも中間で、キルンベルガー第一法が超苦手なニ長調にもなってるし!
実はD-Aのウルフを踏みまくっているのですが…気づいた人は手を挙げてください。





・・・と言われて何度か聴き直せば「もしかしてここかなあ」と思う人がいるかもしれません。
しかし前振り無しで一度聴いて、気づく人はほとんどいないはずです。
D・Aを同時打鍵している個所の一部↓



以前記事にした猫のワルツ同様、この曲も非常に速いテンポが指定されています ──── 確かに、こんなに速くちゃ分からないよ!ですね。
試しにシーケンサーで0.5倍速再生すると、もうバレバレで全くダメです。
これくらいのテンポでも危ないと思います。
きっちりショパン指定の速さで弾き切るのが必須条件。

しかし単に速いから偶然第一法で弾けるだけ、と言ってしまうのはどうかと思う点もあるのです。
ニ長調の部分は「delicato」(優美な/繊細な)の指示があり、しかも「p」です。
チャーミングな曲調を生かすように軽いタッチで弾けば、こんなに危ない個所(下楽譜で薄桃色の小節)があるのに、第一法でも何とか通過してしまいます。


極めつけはコーダ少し前のクライマックスで ──── ↓


D-Aの空五度にC#! 何と大胆なショパン様…!
良く聴くと響きに雑味があるんですけど、破綻には程遠く音楽的にはギリギリセーフ。
これもみんな偶然なんでしょうか???

このような危険個所(破綻せずとも響きは悪い)がいくつかあるも、それ以外は第一法の純正音程が大いに活躍、最後4小節もペダル踏みっぱなしでドミソだけなど、この曲は総合的に第一法で演奏する意味が十分にあります。
何しろ和音だらけのエチュードなので、平均律だと終始鈍い響きでウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョウニョ…とミミズか芋虫が這っているようにしか聴こえません。(笑)
キルンベルガー第一法だと和音のエッジが立っていて、シャカシャカと気持ちがいいですね。

ただし実際に演奏する場合は、相当上手く弾ける人でないと危険なのは確か。
(冒頭1小節の音型と運指を見ただけでも、私なんぞが一生練習しても指定の速さで弾くのは絶対無理な難しさです)
安全策をとるなら第二法がいいかもしれません。
F-AやA-Cが劣化しますが、上述の危険個所は改善されるので、どっちもどっちな印象です。
こういう例を見ると、キルンベルガー第一法って上級者向けの音律なんだなぁ・・・としみじみ思いますね。

【追記】キルンベルガー第二法バージョンはこちら

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