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「平均律クラヴィーア曲集」音律の謎

平均律クラヴィーア曲集第一巻 24番(ロ短調)プレリュードを、ヴァロッティ(音律の五度圏図などは前の記事)で演奏してみました。
記事のBGMにどうぞ。↓↓↓(繰り返し省略)



鍵盤楽器の音律について、最初に興味を持ったきっかけはバッハの「平均律クラヴィーア曲集」(のレコードやCDの解説)という人は多いと思います。
もちろん私もその一人です。(^ ^;)
以下、この曲集が想定している音律は、現代ピアノが採用している12等分の平均律ではなく、それなりに不等分なものだった ─── という前提で話を進めます。

疑問点を思いつくままにあげてみると・・・
1、その音律はこの曲集だけに使われていたのか、それとも他のバッハの曲にも「常用」されていたのか?
⇒「バッハは調律の際、全ての長三度を高く(広く)するように要求した」(マールプルク)「バッハは他の誰にもできぬような調律を行い、それで24の調を巧みに弾きこなした」(キルンベルガー)という弟子達の証言は、この曲集限定なのか、それともバッハが常にそのように行っていたということなのか?
⇒ ところでこれらの「証言」、真に受けていいものか?

2、第一巻と第二巻は同じ音律が想定されているのか、それとも違うのか?
⇒ 第二巻はキルンベルガー第二法の可能性はないか?

3、本当に一つの音律で全曲通すのか?
⇒ 適宜調律替えしながら24の調を奏破するのも「ウェル・テンパー」と言えなくもない?
⇒ チェンバロは音が狂いやすいから、途中で拾い調律の際に数音変更するのもアリなんでは?

4、本当に「特定の音律」が想定されていたのか?
⇒ 奏者自信が納得できるなら、何でもいいよ・・・だった可能性はないか?
⇒ この曲集は弟子達に独自の音律を考えさせるための「課題」だったのではないか?
⇒ バッハ自身も、適宜色々なウェル・テンパー的音律を試し、この曲集を「テスト用」として使っていたのではないか?

5、一時期流行った?「ヴェルクマイスター」説は本当か?

6、最近流行りの「第一巻表紙の唐草模様が音律を暗示している」説は本当か?
⇒ もし本当なら、ここから導かれている複数(というより多数?)の音律のうち、正解はどれか?

7、純正長三度は残っていただろうか?

8、純正より広い五度は残っていただろうか?

9、ピタゴラス長三度は残っていただろうか?

こうして並べてみると、3と4って意外と盲点ですよね。(笑)
色々な「バッハ音律」でかまびすしいですが、それらはどれも「ある特定の音律で曲集全部を通す」ことを前提に、案出(または解読?)されていて、時にどれが正しいか的な議論を巻き起こしてるわけですから。
事実こちらのページ(英語)では、元祖唐草模様派のレーマン氏が他のバッハ音律について解説していますが、中にはかなりぶった切りされている音律もあります。
(彼の自信は相当なものです ── 「バッハ音律」を公表せんとする人は、このレーマン攻撃にさらされるのを覚悟の上で!)

バッハがウェル・テンパーな音律について何も書き残していない(少なくとも「文」には)ことから、4の可能性は結構ある気がします。
マールプルクやキルンベルガーの言葉も具体性に乏しく、これらから多くの音律が想定できるからです。
その上で、私だったらどうするかなあ・・・と考えると、7・8・9はどれも「残っていない」音律にしますね。
冒頭のロ短調プレリュード、C#-E#やF#-A#(ヴァロッティではどちらもピタゴラス長三度)が鋭すぎ、もう少し和らげたいところなので。
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ヘ短調のシンフォニア



引き続きこちら↓↓↓の音律で、バッハのシンフォニア(三声のインヴェンション)九番へ短調を鳴らしてみました。



この曲は♭4つのヘ短調というだけでなく、G♭、C♭、F♭さらにはB♭♭まで使われていて、音律的には「インヴェンションとシンフォニア」の中でも難曲のひとつです。
中盤~後半にかけてハズレ気味の音程が目立つし、和音も随所でニュルニュルとうなっています。
これは音律の広い五度をまともに弾いたり、それをまたぐ純正とかなり外れた和音が鳴っているから。
もっともヘ長調でピカルディ終止するので、F-Aの純正長三度で終われるのが救いではありますが。

この曲はプチ受難の音楽などと言われていて、曲調からして音律による歪みが多少はあった方が苦悩の表現としてふさわしい・・・考えることもできます。
でももう少し無難にまとめたいと思う人もいるはず。
この音律で、♭4つから#4つまである「インヴェンション~」を全曲聴いてみると、「適」と「不適」の境界線上にあるかなあ、と私的には感じました。

調性感重視 ─── なら、この音律で通すのもアリと思います。
調号の少ない曲は響きのまとまりが良く、多くなるに従いバラけた感じになる、その「差」を積極的に楽しむという捉え方ですね。
一方、調号の少ない曲が少々平凡になってもいいから、不良音程もそこそこの範囲内におさめたいなら、もう少し均した音律にする必要があります。
(他に、トッカータ嬰へ短調BWV910もこの音律では若干きびしい感があるが、これを嬰へ短調の個性と取るか、もっと無難にまとめるかによって音律の選択が違ってくる)

ここからさらに均すには、ミーントーンの五度(純正より約5.5セント狭い)の数を減らすのも一案ですが、狭い五度の配置はそのままで、ミーントーンの五度ほどは狭くない五度 ─── 例えば純正よりも約4セント狭い ─── にする方法もあります。
すると晴れて?広い五度が消失して、昨今チェンバロの調律としてよく使われているヴァロッティになります。



さきほどのシンフォニア九番を、ヴァロッティで↓↓↓



守備範囲外?の音程が頻出も、大過なくまとめている印象です。(笑)
ヴァロッティは平均律よりは調性感がありますが、それは「わずかに」という程度。
英語の説明では、よく副詞「slightly」が使われています。
最も悪い長・短三度でもピタゴラス三度を超えないので、極端に不快な響きはしないかわり、調号の少ない曲でも微妙に音程がズレているため、どうも決め手に欠ける印象です。
そこそこヒットは飛ばすけど、ホームランは打てないバッターみたいな。

ともあれこのヴァロッティは、「インヴェンション~」には丁度いいくらいで、「平均律クラヴィーア曲集」には適か不適かの境界線上・・・でしょうか。

古典調律の鬼門?「ロ短調」

バッハの「フランス風序曲」(パルティータロ短調)は、ガヴォットでロ短調⇒ニ長調の平行調転調、パスピエではロ短調⇒ロ長調(#5つ!)の同名転調をしています。
前回と同じ音律で、パスピエの方を鳴らしてみると・・・↓↓↓



ロ長調部分は長三度が相当広いですが、それなりに可愛く?聴こえていて、これはこれでアリかなあという印象です。
短調から長調に移った時のインパクトが、長三度が広いことでより強調されている感じ。
イギリス組曲五番のパスピエII(ホ長調)と同じパターンですね。
この部分は、#系の長三度が良くなるように最適化した音律だと、G#が低すぎるなどかえって不自然になります。

しかしロ短調部分は和音がかなりガシャガシャした響きで、お世辞にも「キレイ」とは言えません。
他にも長大な序曲や終曲の「エコー」など、和音が厚い楽章はどれも厳しい鳴り方です。
ロ短調は、調号こそ#二つしか付いてませんが、実はミーントーン系の古典調律にとっては、苦手な調なんですね。
なぜなら和声的短音階では、A ⇒ A#になるから。↓↓↓



音階の構成音がウルフ残存領域をまたぐので、終始そのアッチとコッチで音をやりとりしなければならず、それで響きが悪くなるのです。
今回使った音律は C#-G#-E♭(D#)の二箇所が広い五度(合わせて約+9セント)なので、まさにこの落とし穴?にハマッていることに。
この辺に広い五度が残っていない音律(ヴァロッティやヴェルクマイスターなど)にすれば、多少はこなれた響きになり、完全な平均律にすればさらにもう少し良く?なります。
(ただしそのぶん、調号の少ない組曲は「劣化する」わけですが)
しかしこのロ短調組曲は、どうやっても「美しく」鳴るようにはできません。
長時間の組曲を演奏する間、耳はかなり歪んだ響きにさらされることになります。

何でロ短調なんかで書いたかなあ・・・としばらく考えていましたが、「フランス風序曲」が「イタリア協奏曲」とセットで「クラヴィーア練習曲集・第二部」としてバッハ自身の手で出版されたことに思い当たった時に、その答えが分かりました。
「イタリア協奏曲」はヘ長調、ミーントーン系の音律に最も向いている、キレイに響く調です。
バッハはそれと正反対の調を、組曲に選んだのでは・・・?
そもそもこの二曲は、「イタリア風(の最新協奏様式)」と「フランス風(の古典的舞曲組曲)」、「長調」と「短調」という点でも、何から何まで対照的な組み合わせ。
「F」と「B」、主音だって五度圏で真向かいじゃないですか!

当時この楽譜を買って、チェンバロで弾いた人達の音律環境は色々だったでしょうが、よほど特殊な調律でない限り、美しいヘ長調と歪んだロ短調の対比を楽しみ、好みや気分に応じて弾き分けていたに違いありません。
今風の言葉で言えば「クラヴィーア練習曲集・第二部」は、真逆の二曲セットだったんですね♪

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