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ヘ短調のシンフォニア



引き続きこちら↓↓↓の音律で、バッハのシンフォニア(三声のインヴェンション)九番へ短調を鳴らしてみました。



この曲は♭4つのヘ短調というだけでなく、G♭、C♭、F♭さらにはB♭♭まで使われていて、音律的には「インヴェンションとシンフォニア」の中でも難曲のひとつです。
中盤~後半にかけてハズレ気味の音程が目立つし、和音も随所でニュルニュルとうなっています。
これは音律の広い五度をまともに弾いたり、それをまたぐ純正とかなり外れた和音が鳴っているから。
もっともヘ長調でピカルディ終止するので、F-Aの純正長三度で終われるのが救いではありますが。

この曲はプチ受難の音楽などと言われていて、曲調からして音律による歪みが多少はあった方が苦悩の表現としてふさわしい・・・考えることもできます。
でももう少し無難にまとめたいと思う人もいるはず。
この音律で、♭4つから#4つまである「インヴェンション~」を全曲聴いてみると、「適」と「不適」の境界線上にあるかなあ、と私的には感じました。

調性感重視 ─── なら、この音律で通すのもアリと思います。
調号の少ない曲は響きのまとまりが良く、多くなるに従いバラけた感じになる、その「差」を積極的に楽しむという捉え方ですね。
一方、調号の少ない曲が少々平凡になってもいいから、不良音程もそこそこの範囲内におさめたいなら、もう少し均した音律にする必要があります。
(他に、トッカータ嬰へ短調BWV910もこの音律では若干きびしい感があるが、これを嬰へ短調の個性と取るか、もっと無難にまとめるかによって音律の選択が違ってくる)

ここからさらに均すには、ミーントーンの五度(純正より約5.5セント狭い)の数を減らすのも一案ですが、狭い五度の配置はそのままで、ミーントーンの五度ほどは狭くない五度 ─── 例えば純正よりも約4セント狭い ─── にする方法もあります。
すると晴れて?広い五度が消失して、昨今チェンバロの調律としてよく使われているヴァロッティになります。



さきほどのシンフォニア九番を、ヴァロッティで↓↓↓



守備範囲外?の音程が頻出も、大過なくまとめている印象です。(笑)
ヴァロッティは平均律よりは調性感がありますが、それは「わずかに」という程度。
英語の説明では、よく副詞「slightly」が使われています。
最も悪い長・短三度でもピタゴラス三度を超えないので、極端に不快な響きはしないかわり、調号の少ない曲でも微妙に音程がズレているため、どうも決め手に欠ける印象です。
そこそこヒットは飛ばすけど、ホームランは打てないバッターみたいな。

ともあれこのヴァロッティは、「インヴェンション~」には丁度いいくらいで、「平均律クラヴィーア曲集」には適か不適かの境界線上・・・でしょうか。
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