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さまよえるスキスマ

キルンベルガー第一法では、F#-C#に約2セント狭い五度が置かれています。
この約2セントは、ピタゴラス・コンマ(約24セント)とシントニック・コンマ(約22セント)の差分で、スキスマと言います。



このスキスマが現れる五度は、わざわざ少し狭くして作るのではありません。
例えば、キルンベルガー第一法の調律手順の一例を挙げると──

1、Cを基準音に合わせる
2、C⇒Eを純正長三度に取る(純正ならうなりがないので耳でわかる)
3、C⇒G⇒Dと純正に取る(四度または五度に)
4、C⇒F⇒B♭⇒E♭⇒G#⇒C#と純正に取る(同)
5、E⇒A、E⇒B⇒F#と純正に取る(同)

ここまで正しく律の割り出しができていれば、最後に残ったC#-F#がスキスマ分だけ狭い五度になります。
つまり残りなんですね。(笑)
ではここで問題です──キルンベルガー第一法のスキスマは、何故C#-F#に置かれているのでしょう???
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もしスキスマをD-Aの隣、A-Eに置いたとします。
すると、C-E・G-B・D-F#が、純正より狭い長三度になってしまいますね。
E-BやB-F#にスキスマを置いた場合も、狭い長三度がいくつかできます。
これではもったいない・・・それでもう1つ時計回りに動かして、F#-C#なんです。

でもそれだけなら、C#-G#やE♭-B♭などに置いても良さそうなのに・・・?
そうしないのはおそらく音律上に、C#-G#-E♭-B♭-F-C-G-Dと、できるだけ純正五度を連続させた部分を、たくさん取るためだと思われます。
この部分はピタゴラス律になっているので、キルンベルガー第一法では変ホ長調と変イ長調がピタゴラス音階になります。
ピタゴラス音階は旋律が良いとされ、また長二度も整数比(8:9)となるので美しく、これはこれで意味があるのですね。
間にスキスマを置いた五度が挟まると、わずかですがそれが崩れてしまいます。

結果としてキルンベルガー第一法は、ハ長調純正律音階とピタゴラス音階が(一部重複しながら)合体した構成になっていて、どちらにも属さないB-F#-C#の部分は「つなぎ目」と考えることができます。
この音律がキルンベルガーによって公表されたのは1766年ですが、基本になっているのは二つの非常に古い音階なんですね。

キルンベルガー第一法の二人の弟、第二法と第三法も同じ位置にスキスマが置かれています。



さっきと同様に考えると、第二法のスキスマはやはりF#-C#に置くのがよいと分かります。
(B♭-Fに置くという手もありますが ← これは第一法でも同じ)
しかし第三法はスキスマを E-BやB-F#に置いても、純正より狭い長三度はできないので、位置を動かすことも考えられます。
仮にB-F#に置くと、五度圏の左側が全て純正五度になり見た目もスッキリ?、三法では失われていたピタゴラス音階が、嬰ハ長調で出現します。↓↓↓



たった2セントのスキスマですが、細かく見ていくとなかなか奥が深いことです。
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スキスマ位置に関する一意見

何分キルンベルガー第一法はシンプルすっきり律ですから,いくつか見方ができるでしょうが,ピタゴラスとハ長調純正律の合体版(もしくは折衷版)というのは妥当な見方だと思います。
どーしてもオイラー格子で考えてしまう(笑)のですが,格子上でピタゴラスは一段,キルンベルガー第一法は二段,通常型のハ長調純正律は三段になります。
キルンベルガー第一法のスキスマ位置は,ピタゴラスの一段を二段に切り取る位置に相当します。
ご指摘通り,右回りに見てC#〜F間のどこに置いても大差無さそうですが,ご指摘の純正五度の連続などの理由の他に,(どちらが先か知りませんが)楽典では嬰ヘ調と変ニ調の間が断絶しますから,そこに残り(スキスマ)を置くのが自然だとは思います。ですからF#-C#間というよりもF#-D♭間。第二法,第三法でも同じ位置ですから,慣習的にそうしたのではないでしょうか。この音律では実質的な差は小さいですが,♯系と♭系を分つのがこのスキスマ位置ではないでしょうか。
音律的に詳細に検討すれば,第三法のREIKOさん案もありですね。

第三法の改変音律

  • REIKO
  • 2012/11/25(Sun)15:48:16
  • 編集
Enriqueさん、

最後にあげた第三法の改変音律は、私がかき集めた(笑)音律データの中に「PRINZ Theoretical-well 1808」としているものがあります。
キルンベルガー「第三法」として有名になったのは現代としても、似たような音律が19世紀にも知られていた(普及度はともかく、少なくとも考えられてはいた)ということでしょう。
また海外の、古典調律を推奨しているピアノ調律師の方がやっているサイトで、自分のピアノはこのように調律している…の説明を読むと、この改変音律と同じという事例もありました。
CからEまででシントニックコンマを四分割するなら、スキスマはB-F#に置く方が「スッキリ」というのは、誰でも考えつくことだろうと思います。
この、五度圏の右側だけでコンマを処理、左は純正五度…をもう少しスッキリ(笑)させれば、ヤングIIになりますね。
このタイプは19世紀前半の音律として、代表的なものの一つではないかなと感じています。

それでコメントを拝見していてふと思ったのですが、鍵盤曲で18世紀には概ね「嬰ヘ長調」だったのが19世紀には「変ト長調」優勢になるって、何か音律と関係あるのでしょうかね?
#系と♭系をスキスマ位置で分かつとすれば、(記事最後の図で)第三法はF#、改変音律ではG♭ですよね…?!!

★五度圏図の音名表記については、ミーントーン(系)は異名異音なのでウルフを堺に#と♭を分けていますが、それ以外(概ね異名同音が成立している音律)は一律F#・C#・G#・E♭・B♭としています。
(そうでないと例えばピタゴラス律の場合、ウルフの位置によってはB#だとかF##のような音名が出てしまい、違和感があるので)
記事中にあげた調律の手順によれば、正しくはF⇒B♭⇒E♭⇒A♭⇒D♭となるのですが。

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